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〇スポーツ疲労の対応策
 疲労は運動した結果として生じる、ごく当然な生理反応であり、疲労すること自体に何の問題もありません。スポーツ活動において大切なことは、疲労した後のケア方法にあります。運動後のアイシングやストレッチングも、疲労のケア方法として一般的に認知されてきましたが、それでもウォーミングアップやトレーニングと対等に重要視されていないのが現状です。疲労のケアは、その原因が特定されれば対応は比較的簡単です。また、特別なケアを行わずに一般的に良いとされているものだけでも、しっかりと正しく取り組んでいれば効果的なものとなります。しかし、一般的なケア方法だけでは、完全に疲労をカバーしきれないのも事実です。疲労の原因が複数あるように、それに応じて疲労の対応策も色々とあります。ここでは、一般的なケア方法からより専門的なものまで、十分に疲労に対応できるように説明していきたいと思います。

1.クールダウンのアイシング
 アイシングとは、運動によって上昇した体温を下げる目的で行います。運動が終了しても体温は高温で持続してしまいますので、無駄なエネルギー消費によって疲労を引き起こします。また、痛みや違和感がある部位などは、運動によってダメージを受けてしまうので炎症を起こす可能性があります。アイシングはこのように上昇した体温の持続が引き起こす問題を、氷や冷水を使用して瞬時に解決してくれます。アイシングを行う個所は、痛みや違和感のある部分,ケガをして回復まもない部分,酷使した部分です。他には各自で疲労が翌日に残りやすい部分や、運動中に打撲した部分のアイシングも効果的です。

●実施方法
 クールダウンとして行うアイシングは、応急処置で行うアイシングとは異なります。冷却時間は15~20分程度で、アイスパックや氷嚢を用意しておくと便利です。氷が用意できないのであれば、シャワーや水道の利用で補います。合宿中であれば宿舎に浴槽があると思いますので、冷水風呂に入浴すれば全身を効果的にクールダウンすることができます。

*アイシングの心理的な効果
 クールダウンのアイシングには、ボディトリートメント以外にも心理的なリラックスを狙って行います。氷で冷やしたり、冷水浴や冷水シャワーを浴びたりすると、練習で高められた緊張や興奮をほぐす効果があり、精神的なストレスを軽減してくれます。とくに合宿や強化期間中には、高強度の練習によって選手達は心身ともに疲労していきます。このような期間では練習と休息のメリハリが重要であり、きつくて辛いだけの練習に耐えることだけが効果的ではありません。可能であればプールなどの利用も、良好なコンディション作りに効果的ですのでお勧めします。
    
2.ストレッチングでリセット
 クールダウンで行うストレッチングは、使用した筋肉の緊張をほどく目的があります。主運動で使用された筋肉は、容積が膨らんで張った状態になっていますので、そのまま放置しておくと硬くなってしまいます。そのため、ゆっくりとリラックスしながら筋肉の張りを取り除き、高まった神経の活動レベルも安静時状態に戻していきます。

●実施方法
 クールダウンのストレッチングは基本的に軽いランニングから開始し、セルフストレッチングで全身をほぐしていきます。チームメイトと会話しながら5~10分程度行い、とくに気になる部位においてはパートナーストレッチングで重点的に行うようにしましょう。運動後のストレッチングは筋温が上昇しており、筋肉や腱が伸びやすい状態になっていますので、柔軟性の維持,向上には効果的です。

3.クールダウンで行う軽運動回復法
 最近ではクールダウンとして、練習の終盤にランニングなどの軽運動を取り入れているチームが増えてきました。少し前まではクールダウンが認知されておらず、練習が終了したら全員で座ってストレッチや、その場に立ったままの整理運動など、形式だけのクールダウンばかりでした。しかし、現在では色々な情報がスポーツ現場に届くようになって、変わりつつあるようです。では、実際にジョギングなどの軽運動が、どのようなプラスの影響を身体に与えているか、さらにどのように実施したら最も効果的かを説明していきたいと思います。

●軽運動回復法の効果
 運動終了後に行うクールダウン方法として、安静回復方法と軽運動回復方法を比較した研究結果がるので紹介しておきます。安静回復方法は文字通りに安静状態でダウンを行い、軽運動回復方法はジョギングなどの軽運動を行ってダウンし、共に5分刻みで血中乳酸値を測定していきます。乳酸値の低いほうが、より効果的に疲労の除去を行っていることになります。結果は図1の示す通りであり、軽運動回復方法が圧倒的に除去が早く行えます。従って、余計なエネルギーの消費も少なくて、疲労の蓄積を防ぐことができます。
 
●軽運動回復法実施方法
 最も効果的な運動強度は、最大酸素摂取量の35~40%と研究報告がありますが、現場では主観的な運動強度で40%程度だと考えて行えばよいと思います。強度の変化については、最初に強めに行って徐々に弱くして行く方法と、終始一定で行う方法では、その効果について意見が分かれていますが、どちらでも安静にするよりかは効果があることが明らかになっています。また、ランニングの最中に休息を入れたりストレッチングを入れたりすることは効果的であり、間欠的な軽運動であっても乳酸の除去効果は望めます。乳酸の除去を目的とする軽運動での注意点は、運動がきつく感じてしまわないことと、楽に感じる程度の有酸素運動をメインに構成することです。

4.疲労を回復させる入浴方法
 入浴とは我々の日本文化において、ごく当然の日常生活の一部となっていますが、その作用は想像以上に身体にプラスの影響を与えています。通常の入浴目的は体を洗うことが主な理由となりますが、疲労回復としての入浴には疲労物質の除去という目的が加わります。通常の入浴方法は、時間も温度も主観的な感覚に頼っていますが、疲労回復の入浴には生体反応の根拠に基づいたデータがあります。なんとなくの温度や時間で入浴するのではなく、疲労回復に効果的な方法を理解して入浴すれば、高いコンディションの維持が可能になります。

●通常入浴
よくある入浴の誤認で、熱湯のような高温入浴(42℃以上)のほうが発刊作用を促進し、疲労回復に効果的であると勘違いされているようです。疲労回復の入浴の目的は、汗をかくことではありません。これは皮下の血流量だけが増加して、筋肉中の血液量は減少してしまい、疲労物質は除去されません。生体反応からみても、37~40℃の低温浴が効果的であり、20~30分程度の半身浴をお勧めします。血液が体内を一巡するのに約1分間かかりますので、20分間の入浴で暖かい血液が約20回循環することになります。これによって各臓器が温まるので、体内の代謝能力が高まります。
●反復浴
反復入浴とは、入浴と休憩を交互に行う入浴方法です。半身浴で42℃以上のお湯に3分間つかり、今度は湯船から上がって5分間休憩します。これを1セットとして3セット行います。42℃以上のお湯は、連続して10分間以上入浴すると大きな負担が身体にかかってしまうので、小分けして入浴時間を確保すると効果的な入浴となります。 
●温冷交代浴
 交代浴は温浴と冷浴を交互に入浴し、血管の拡張と収縮を繰り返すことによって、代謝を高める入浴方法です。この入浴方法は、交感神経の働きが活発になって血圧が上昇しますので、高血圧の選手にはお勧めできません。また、交代浴はシャワーを使用して部分的に行うことも可能です。42℃以上のお湯を疲労感のある部位に3分程度かけた後、18℃前後の冷水を数十秒かけることを5回行います。この方法は慢性的なケガにも効果的ですので、たまに痛む古傷などにも有効です。

※注意点
 入浴時には皮膚の血管が拡張するため、胃腸の血管は収縮して血液が不足し、胃腸の働きは鈍ってきます。従って、食事の直後は消化不良を起こす可能性があり、最低でも食後1時間以内の入浴は避けるべきでしょう。夏バテなどで食欲をなくしてしまう症状がありますが、これは同様の理由からです。また、運動直後の入浴(40℃以上の場合)も避けるべきです。筋肉中の血液量が減少し、疲労回復を阻害してしまいます。さらに、入浴は発汗作用がありますので、十分な水分補給を心掛けましょう。

5.休養のとり方
 休むことに抵抗を感じる選手や指導者は多いと思いますが、練習と休養のバランスはとても重要です。トレーニングの効果は週に1日では現状止まり、週2日でも有効な変化はなく現状維持、週3日からは増えるごとに効果が上がっていきますが、5日以上になるとスポーツ傷害の発生頻度が急激に高くなるといわれております。休養をとらずに毎日長時間の練習をしても、練習量の割には競技力の向上がありませんし、むしろケガの発生頻度を増加させているだけになってしまいます。また、選手の心理面においては、練習の疲労感や辛さだけが記憶されてしまい、好きで始めたスポーツを嫌いになってしまうことさえあります。練習の効果というものは、休養があることによって最大限生かされるということです。従って、考え方によっては休養も練習の一環なのです。

6.疲労回復の食事
 疲労回復及び疲労の蓄積を防ぐための食事では、その目的が2つあります。1つは運動によって消費したエネルギーの補充、もう1つは運動による疲労の除去です。体を動かしているエネルギーが食事である以上、食事を抜きにしてコンディショニングを考えることはできません。ここでは疲労回復の栄養とタイミングについて説明していきますので、普段の食事の参考にして下さい。

●糖質(炭水化物)の補給
 運動で消費したエネルギーとは糖質であり、その補充も同様の糖質を補充する必要があります。糖質の量としては通常の練習レベルであれば、体重1㎏当たり0.7g以上が必要です。体重70kgの選手であれば、49g以上の糖質、カロリーでは200kcal以上の糖質の摂取が望ましいことになります。摂取するタイミングとしては、運動後15分以内までが、最も多く体内に貯蔵できることが解明されています。さらに同時にタンパク質を含んでいるほうが、より効果的に摂取できるという研究結果も発表されていますので、糖質3,タンパク質1の割合で配合されているサプリメントなどが有効に利用できます。また、サプリメントを利用しない場合でも、運動後になるべく早くに高糖質食品を摂取するようにしましょう。

●疲労回復を促進させる栄養素
・アミノ酸(BCAA)
 長時間の運動や激しい運動では、血液中のアミノ酸(BCAA)が少なくなり、この減少を感知して脳が疲労し、筋肉の活動を抑制させているといわれています。しかし、運動前や運動中にアミノ酸を摂取すると、疲労の感知を遅らせることができ、運動中の疲労対策に効果的となります。また、神経伝達物質に深い関係を持つビタミンB群やミネラルの補充も重要です。
・クエン酸
 クエン酸は柑橘系に多く含まれる有機酸であり、人間の代謝においても重要な機能をもっています。クエン酸はクエン酸サイクル(クレブス回路)を回転させる源であり、このサイクルはエネルギーを発生させるマシンといえます。つまり、エネルギー製造マシンの回転源がクエン酸なのです。体内のエネルギー製造サイクルが活発であれば、疲労回復にも効果的なことは明確であり、クエン酸が体に必要なことは当然のことです。もろみ酢や梅肉エキスなどの健康食品がありますが、これらもすべてクエン酸含まれていることで、疲労回復に効果的と宣伝されているのです。また、クエン酸サイクルの回転にはビタミンB群,ビタミンCが欠かせませんので注意して下さい。
 摂取方法は市販のクエン酸粉末か、柑橘系(レモン,グレープフルーツetc)などの絞り汁を水と混ぜて摂取します。クエン酸は摂取してから約2時間しか活動しませんので、一度に大量摂取するよりも分割的に摂取するほうが効果的です。また、胃酸過多の選手は薄めて飲むようにしますが、通常の摂取方法であれば薬ではないので副作用はありません。しかし、異変があれば使用を中止するか量を調節してみてください。

7.疲労状態の把握
 疲労状態は選手自身で把握しなくてはなりませんが、指導者も全体的な状態の把握をしなくてはなりません。しかし、疲労の把握というのはとても難しいものであり、指導者が気付かずにいて、選手からも申し出ないことがよくあります。指導される方も試合に出してから「動きが悪い」「いつものプレーができていない」と感じることがあるようです。しかし、練習中には疲労に気付かなかったために、その原因が集中力の欠如や緊張によるミスと錯覚してしまうのです。こうした状況は最悪の場合、選手の故障につながるため、もっとも危険な状態といえます。疲労が選手のケガにつながってしまう理由としては、疲労により遅れてしまったプレーのカバーリングが上げられます。選手は疲労で反応できなかったプレーに対して、本能的にファールや無理な体勢でのプレーでカバーしようとしてしまいます。後半にファールが増加したり、故障者を多く抱えてしまったりするチームは、多少なりとも疲労が関係しているでしょう。
 
●起床時の心拍数
 疲労の研究によると、数多くの検査項目のなかで、最も関連性が高かったのが起床時の心拍数で、疲労状態が高まると心拍数が急激に上昇するようです。本来は起床時の脈拍を測定するのが理想ですが、現実に実施するのが困難ですので、主観的なものでもよいと思います。合宿中や強化期間中には朝食前にアンケートを行い、目覚めたときの疲労感,倦怠感,体重や体温の変化,などを選手に記入してもらうのも参考になります。

●練習終了してから10分後の心拍数
 どんなに高強度の練習で息が切れても、通常は数分もすれば収まりますが、10後でも収まらない場合にはオーバートレーニングといえます。これは、インターバルトレーニングなどによって把握できます。通常では十分に回復できるレスト(休憩)を挟んでいるのに、2本目が急激に減速してしまうようであれば問題です。また、インターバルトレーニングは疲労物質に対する抵抗力を高めるトレーニングですので、適切に実施すれば疲労に対する抵抗力を身につけられます。

●食欲低下や睡眠障害は疲労の赤信号
 慢性的な疲労状態では、食欲が低下したり熟睡できなくなったりします。経験したことのある選手も多いと思いますが、強化合宿などの練習で疲労困憊となり、食事よりも何よりも一刻も早く体を休めたいという状態や、疲労しているのに熟睡できないといった状況は慢性疲労に陥っている症状です。強化合宿なのに体調不良による見学者が多い状態は、本当に効果的な合宿なのでしょうか?合宿や強化期間には、精神面の強化も目的に含まれる場合があるかと思いますが、現実としてこのような症状が出てしまっているのであれば、指導される方は与えた練習の結果として受けとめなければなりません。

〇スポーツ疲労について
 スポーツを行った結果として、疲労を感じることは当然のことです。逆に疲労を感じないような練習ばかりでは、有効な技術力の向上もありませんので充実感もないでしょう。かといって、疲労を蓄積してしまうほどの運動強度が、有効に技術力を向上させているわけでもありません。すべては、質量のバランスなのです。例えばレクリエーションスポーツであれば、運動強度も高くありませんので、疲労回復のクールダウンを行わずして本来のコンディションまで、自動回復していきます。しかし、運動強度が非常に高い競技スポーツになると、身体の自然治癒による自動回復域を超えてしまうため、専門的なボディケアが必要になるのです。つまり、スポーツには運動強度に見合ったコンディショニングが必要になるということです。最近ではトップアスリートがトレーナーと個人契約して、専属でボディケアを一任する傾向がありますが、運動強度からしても納得できます。これはプロとかアマチュアという問題ではなく、運動強度の問題です。競技成績をさせるためにはアマチュアでも運動強度が高くなりますので、それに見合ったボディケアが求められるのは当然のことなのです。

怪我のない良い状態でのパフォーマンスを出していくためにも疲労を溜めない、自分自身の状態を把握してしっかりとケアをしていくことが長くスポーツをしていくことに繋がっていくので当院にてもアドバイスを行っていますので何かありましたらご相談ください(^^♪

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